企業の成長や新規事業の立ち上げにおいて、全体像を見渡せるフレームワークを活用できれば、大きな成果をつかむ可能性が高まります。
しかし、具体的な手法や実践方法がわからず躊躇してしまう方も少なくありません。
そこで本記事では、ビジネスモデルキャンバスを事例とともに解説し、スムーズに活用できるポイントを紹介します。
あなたのビジネスが抱える課題解決に役立つ情報をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
ビジネスモデルキャンバスとは?
ここではビジネスモデルキャンバスがどのようなものか、その概要と活用イメージをつかむための下地を整えましょう。
概要
ビジネスモデルキャンバスは事業を9つの要素に分割して整理し、事業全体の構造を一枚で見渡せるようにするフレームワークです。
顧客セグメントや提供価値、チャネルなどの要素を一覧にすることで、ビジネスの強みや改善点を発見しやすくなります。
そして注目される理由として、必要なリソースや収益構造を同時に可視化できる点が挙げられます。
複雑になりがちな事業モデルをまとめられるため、新たなアイデアの創出や迅速な意思決定を後押ししてくれるでしょう。
注目される理由
これまで事業計画書などは文章中心で作成されることが多く、読み手によって解釈が異なったり内容を把握しきれなかったりする課題がありました。
ビジネスモデルキャンバスは要点だけを分かりやすく並べる形式のため、経営陣から現場担当者まで同じビジョンを共有するのに適しています。
さらにスタートアップ企業でも使われることが多いのは、少ないリソースで素早く検証と修正を繰り返すリーンなアプローチを取り入れやすいからです。
結果として、事業の方向性をぶれさせることなく進められる役割を担っています。
9つの要素から構成させる
ビジネスモデルキャンバスを構成する9つの要素、すなわち「顧客セグメント」「課題」「独自の価値提案」「チャネル」「ソリューション」「収益の流れ」「主要指標」「コスト構造」「圧倒的な優位性」は、それぞれが事業運営に欠かせない視点です。
これらを同時に検討することによって、どの顧客にどんな価値を提供し、そのためにはどのような資源や活動が必要で、どこから収益が得られコストがかかるのかを包括的に見極めることができます。
まさに事業の「全体図」を俯瞰するための便利なツールと言えます。
ビジネスモデルキャンバスを作るメリット
ここからはビジネスモデルキャンバスを作成することで得られるメリットを掘り下げ、導入検討の後押しとなる情報をまとめます。
全体像の把握とチームの共通認識が取れる
事業を1枚のシートで整理する最大のメリットは、関係者が同じ情報を同じタイミングで共有できる点です。
複数部署や異なる専門領域のメンバーが集まるプロジェクトでは、どうしても認識のずれが生じがちです。
しかし、ビジネスモデルキャンバスを使うと、全員が同じフレームの中で議論を進められるため、「この顧客セグメントはどのような価値を求めているか」や「主要パートナーにどんな企業が必要か」といった要点を分かりやすく洗い出せます。
その結果、事業コンセプトや戦略を一貫して進められるようになるでしょう。
迅速な仮説検証と意思決定に繋がる
新規事業をはじめ、ビジネスにはスピード感が求められます。
ビジネスモデルキャンバスではアイデアを視覚化しやすいため、「この要素が欠けていた」「ここに追加のチャネルが必要だ」といった気づきを得るのが速くなります。
また、定期的に更新を行うことで、外部環境の変化や顧客ニーズの変動に合わせて柔軟にモデルを修正可能です。
結果として、時間をかけずに方向性を判断し、投資やリソース配分を最適化する判断もスムーズになります。
多角的な分析による抜け漏れ防止に繋がる
ビジネスモデルキャンバスに含まれる9つの要素をバランスよく検証することで、あらゆる視点の抜け漏れを防ぎやすくなります。
例えば、どれほど優れた製品やサービスを提供していても、顧客との関係構築の計画が弱ければ十分に売上につながらないかもしれません。
あるいはコスト構造ばかりを重視してしまい、提供価値が曖昧になるケースも考えられます。
こうした見落としを防ぐのにビジネスモデルキャンバスは役立ち、結果的に事業成功率を高めるサポートとなるのです。
ビジネスモデルキャンバスの作成手順4ステップ
次にビジネスモデルキャンバスを実際に作成するプロセスを整理し、具体的なステップを見ていきましょう。
ステップ1.9つの要素を理解する
まずはキャンバスを構成する9つの要素を正しく理解するところから始めるとスムーズです。
顧客セグメントや提供価値など、それぞれが何を意味するのかをチーム全員が共通認識を持つことが重要です。
ここで曖昧な状態を放置すると、後々のステップで認識の食い違いが生じ、修正作業に時間を取られるかもしれません。
表や図などを使って、簡潔に説明する場を設けると良いでしょう。
ステップ2.アイデアを書き出して整理する
要素ごとの理解が深まったら、ホワイトボードや付箋を使って自由にアイデアを書き出します。
次に似た内容をグルーピングしたり、重要度の高いトピックを優先順位付けしたりして、キャンバス上に整理していきましょう。
特に顧客セグメントと提供価値の部分は事業の核となるため、具体的に「どんな顧客が」「どんなメリットを求めるのか」を突き詰めることが成功のカギとなります。
ステップ3.定量的な情報を加味する
アイデアをある程度まとめた後は、データや実績値を可能な範囲で盛り込みます。
例えば、予想顧客数や想定単価、マーケットサイズなどを数値化し、収益性やコスト面を検証してみましょう。
経済産業省が公表している各種調査データ(※)を参考に、市場規模や需要動向を把握するのも有効です。
数字を入れることで、具体的なシミュレーションが可能になり、事業の現実味を評価しやすくなります。
(※)例えば、経済産業省「令和○年度産業経済研究会報告」など各種統計調査が該当
ステップ4.定期的な見直しと更新する
ビジネスモデルキャンバスは一度作って終わりではなく、ビジネス環境の変化や新たな気づきに応じて更新を続けていくことが大切です。
外部環境の変動が速い昨今では、四半期に一度など短いスパンで見直す企業も増えています。
過去に立てた仮説が正しかったのか、あるいは修正の余地があるのかを振り返り、継続的にブラッシュアップする姿勢を忘れないようにしましょう。
ビジネスモデルキャンバスを活用するポイント
ここからはビジネスモデルキャンバスをより効果的に活用するコツを紹介します。
顧客目線と差別化の徹底
ビジネスモデルキャンバスを使う際は、顧客目線を常に意識することが肝要です。
提供価値と顧客セグメントが曖昧だと、どこで差別化を図るかが不明確になり、事業の核が揺らいでしまいます。
市場には類似の製品やサービスが多く存在することもありますが、「どの顧客に特化して、どのようにユニークな価値を提供できるか」を具体的に言語化することで、競合との差別化がはっきりするはずです。
チームメンバーを積極的に巻き込む
キャンバスを作成する際は、代表者や経営陣だけでなく、現場の担当者や他部署の人材も交えた議論が望ましいでしょう。
実際に顧客対応をしているスタッフや開発担当者からは、現場ならではの知見や問題提起が出てくることがよくあります。
そうしたリアルな声を取り入れると、机上の空論にならずに済み、実践的かつ説得力のあるビジネスモデルを構築できます。
数値と仮説のバランスをとる
数字ばかりを追いかけると顧客視点を見失いがちですし、逆にアイデア重視で定量的根拠を無視すると実現可能性が低くなるリスクがあります。
ビジネスモデルキャンバスは仮説検証に適したツールなので、各要素について「なぜそうなのか」「どんなデータが裏づけになるのか」を意識して組み上げていくと、施策の説得力が高まります。
チーム全体で議論を深めながら、数字と仮説のバランスを最適化すると良いでしょう。
ビジネスモデルキャンバスに関してよくある質問
最後に、ビジネスモデルキャンバスについて寄せられる疑問点をまとめて解消します。
ビジネスモデルキャンバスは新規事業以外にも使えるの?
ビジネスモデルキャンバスは新規事業だけでなく、既存事業の再構築や改善にも活用できます。
既存サービスの課題を洗い出したり、成熟したマーケットで新たに付加価値を提供する方法を考えたりする際にも役立ちます。
むしろ既存事業の見直しこそ、時代や顧客ニーズの変化を捉えた柔軟な対応が求められるので、キャンバスを利用して抜け漏れをチェックするのは大いに意義があります。
ビジネスモデルキャンバスの作成に最適なタイミングは?
大きな方針転換や新しいプロジェクトの立ち上げ時はもちろん、経営陣の交代や組織変更など内部構造に変化があったときも絶好のタイミングです。
また、日常業務に追われて戦略を見失いがちなときにも、改めてキャンバスを作成することで問題点を可視化し、解決策を導きやすくなります。
ビジネスモデルキャンバスは状況に合わせて柔軟に見直せるので、定期的な活用を習慣化することが重要です。
他のフレームワークと併用すると混乱しない?
SWOT分析や3C分析、PEST分析などのフレームワークとビジネスモデルキャンバスを併用する企業は少なくありません。
それぞれのフレームワークが得意とする視点や目的が異なるので、むしろ組み合わせることで深い洞察を得られる場合があります。
ただし、同時に使う際は目的をはっきりさせ、「市場分析は3Cを参照し、事業構造はキャンバスで整理する」など、役割分担を明確にしておくことが大切です。
そうすることで、フレームワーク同士が補完関係を築き、ビジネスモデルの精度を高める助けとなるでしょう。
以上が、ビジネスモデルキャンバスを取り巻く基本的な理解と実践的なポイント、さらによくある疑問への回答です。
事業を包括的にとらえ、必要なリソースや収益構造、顧客への価値提供を明確化する上で非常に役立つフレームワークなので、ぜひチーム全員で取り組みながら自社のビジネスに適した形へとブラッシュアップしてみてください。
きっと、新しい発見や改善策が見つかるはずです。
ビジネスキャンバスの例のまとめ
ビジネスモデルキャンバスは事業を9つの要素に分解して可視化することで、ビジネスの全体像や成功のカギを一枚に示すことが可能となるフレームワークです。
どの顧客に何を提供し、どのように収益を生み出すかを整理する過程で、抜け漏れなく現状や将来像を描けるのが最大の魅力といえます。
新規事業の立ち上げだけでなく、既存事業の再構築にも効果があり、短期間で仮説検証を繰り返しながら改善策を見つける場面でも重宝されます。
ビジネスモデルキャンバスはこれらのプロセスを円滑に進めるための有効なツールと言えるでしょう。